JTBのブランディング戦略と観光・ソリューション業界の転職面接対策
日本を代表する旅行会社として、長年にわたり国内・海外旅行市場を牽引してきたJTBグループ。同社は従来の「旅行代理店(パッケージツアーの手配・販売企業)」という強固な認知から脱却し、人と人、人と地域、人と企業をつなぐ「交流創造企業」への大規模なリブランディングを強力に推進しています。
コロナ禍による人流の停止という未曾有の危機を経て、同社は自社の提供価値を「移動や宿泊の単なる手配」ではなく「交流によって生まれる感動や課題解決の創出」と再定義しました。これに伴い、従来のツーリズム事業に加え、自治体の地域活性化を伴走支援するエリアソリューション事業や、企業のイベント・インセンティブ・DXを支援するビジネスソリューション事業(M&E:Meetings & Events等)など、BtoB・BtoG領域への事業構造改革を加速させています。
この変革期に伴い、中途採用市場においても、ブランドマーケティング、広報・プロモーション、地域活性化プロデューサー、法人ソリューション営業、サービス企画といったポジションへの注目が高まっています。
しかし、JTBの採用面接において「旅行が好きだから」「大手旅行会社で安定しているから」といった一旅行者目線の志望動機や、表面的な企業イメージを語るだけでは、選考を通過することはできません。面接官が厳しく見極めているのは、「JTBがなぜ35年ぶりのリブランディングを行い、交流創造企業への自己変革を急いでいるのか」という経営的背景を理解し、その実現に向けて主体的に動けるビジネスパーソンとしての実行力です。
JTBのブランディングを支える3大戦略の骨格、採用面接で面接官が見極める評価基準、前職の経験を活かすポータブルスキル、そして選考を突破するための具体的な回答設計を解説します。
JTBのブランディングを特徴づける3大戦略の骨格
JTBのブランド戦略は、単なるビジュアルの変更にとどまらず、事業構造の変革や組織風土の刷新と密接に連動しています。
1. 「旅行代理店」から「交流創造企業」への本質的なドメイン再定義
長年培ってきた「JTB=旅行」という認知は強力な資産である一方、事業領域を広げるうえでは制約にもなっていました。
- 戦略的意図:単なるチケットや宿泊施設の手配代行(モノ・コトの右から左への流通)から脱却し、人と組織、地域が交わる場をデザインして社会課題を解決する「ソリューションカンパニー」としての存在意義を確立することです。
- 実務での位置づけ:企業向けカンファレンスやインナーイベントのプロデュース、自治体の観光DXや未利用資源を活用した地域活性化など、幅広いBtoB・BtoG領域の価値を社外へ一貫して発信しています。
2. 「多様性と挑戦」を可視化するデザインシステムの刷新
35年ぶりにコーポレートロゴを刷新し、従来の赤主体のイメージから、地球が創り出す自然を象徴する「12色のグラデーション」を導入しました。
- 戦略的意図:画一的なパッケージ旅行の時代から、個々人の多様な価値観や社会の持続可能性に寄り添う「ダイナミックで柔軟なブランド」への進化を直感的に伝えることです。
- 実務での位置づけ:厳密なルールで縛るのではなく、顧客や提案内容に合わせて社員が12色から自由に選択できるようにするなど、社員一人ひとりが自律的にブランドを体現できる仕組みを取り入れています。
3. 「The JTB Way」を起点とする徹底したインナーブランディング
9,000人以上の社員の意志をもとに策定された「ONE JTB Values(信頼を創る/挑戦し続ける/笑顔をつなぐ)」をはじめ、社内浸透を最重要施策と位置づけています。
- 戦略的意図:巨大な組織において、経営層の意図が現場に届かない形骸化を防ぎ、最前線の社員が「自分の言葉」で交流創造を語り、行動に移せるようにすることです。
- 実務での位置づけ:全社員向けワークショップ、リーダーによるリブランディング宣言、名刺を活用したブランドカードの配布、制服着用の義務廃止(自分らしさの尊重)など、多面的な施策によって企業文化そのものの変革を推進しています。
採用面接で面接官が見極める3つの評価基準
JTBの中途採用面接において、面接官が候補者の回答から見定めている本質的な評価ポイントは以下の通りです。
1. 「旅行への憧れ」を排した「事業変革・BtoB展開への当事者意識」
面接官が最も警戒するのは、「昔からJTBの旅行が好きだった」「カウンターでの接客やツアー添乗をイメージしている」といった、従来のツーリズム枠にとどまる候補者です。面接官が求めているのは、法人企業が抱える組織課題や自治体が抱える過疎化・観光振興といった経営課題を捉え、「交流の力を使ってどう解決し、事業収益を生み出せるか」を語れるビジネス視座です。
2. 多様な関係者を束ねる「泥臭い対話力と合意形成力」
JTBの強みは、全国47都道府県や世界各拠点に広がるネットワーク、宿泊施設、交通事業者、行政、地域住民との強固な信頼関係にあります。上流から机上の空論を押し付ける人物は機能しません。利害関係が複雑に絡み合うステークホルダーの間に立ち、粘り強く対話を重ねながら共創関係を築ける誠実さと現場力が問われます。
3. 「感動の提供」を「持続可能な収益・KPI」へ落とし込む論理的思考力
ブランドスローガンである「感動のそばに、いつも。」を抽象的な精神論で終わらせてはいけません。その体験をどのようなビジネスモデルで実現し、商談成約率、受託単価、リピート率、あるいは地域の経済波及効果といった定量的な成果へどう結びつけるのか、解像度の高い思考力が求められます。
前職の経験を活かす「ポータブルスキル」の言語化
旅行業界での実務経験がない場合であっても、これまでの職務経歴で培った汎用的なスキルをJTBの変革実務へ接続させることで、説得力のある自己アピールが可能になります。
1. 法人営業・企画提案職出身者
- 活かせる強み:課題ヒアリング力、無形商材のソリューション提案力、合意形成力
- アピール方法:「商談の最前線において、単なるツールの提供ではなく、顧客の組織課題や事業目標に寄り添った解決ストーリーを提示してまいりました。JTBが推進するBtoBソリューションや地域共創において、クライアントの潜在ニーズを掘り起こし、交流を起点とした提案を具現化できます」と伝えます。
2. デジタルマーケティング・制作・分析出身者
- 活かせる強み:データリテラシー、顧客体験(CX)の設計力、導線改善スピード
- アピール方法:「Webサイトやアプリのアクセス解析を通じて、ユーザーがどの接点で迷い、何を求めているかをデータから読み解き、施策の改善を重ねてまいりました。デジタルとリアルが融合する観光DXや、企業のハイブリッドイベントにおいて、直感的で満足度の高いブランド体験を設計できます」と伝えます。
3. 広報・PR・イベント企画・地方創生関連出身者
- 活かせる強み:ステークホルダー対応力、ストーリーテリング力、危機管理意識
- アピール方法:「多様な関係者が介在するプロジェクトにおいて、関わる人々の想いを引き出し、共感を生むメッセージとして発信してまいりました。地域資源の掘り起こしや、企業理念を社内外へ浸透させるインナー・アウターブランディングの両面で力を発揮できます」と伝えます。
採用面接を通過するための回答設計
面接の場で自身の適性と熱意を論理的に伝えるための具体的なポイントです。
1. 志望動機を「事業ドメインへの共感・同社の独自性・貢献意欲」で論理立てる
単に「旅行会社で働きたい」で終わらせず、構成を論理的に整理します。
- 事業ドメインへの共感:「単なる移動や宿泊の手配にとどまらず、人と人、地域、企業が交わる場を通じて社会課題を解決する『交流創造事業』へのリブランディングに深く共鳴いたしました」と述べます。
- 同社の独自性:「100年以上の歴史で培われた地域やパートナーとの強固なネットワークという圧倒的な現場力と、デジタルの力を掛け合わせ、社会に持続可能な価値を生み出せるスケールは、他社にはない唯一無二の強みであると認識しております」と続けます。
- 貢献の提示:「前職で培った〇〇(課題抽出のヒアリング力、多様な関係者との調整力、泥臭い実行力等)を活かし、ステークホルダーと信頼関係を築きながら、交流創造企業としてのブランド価値向上と事業収益の拡大に貢献したいと考え志望いたしました」と結びつけます。
2. 過去の実績を「関係者を巻き込み成果を出したプロセス」で語る
周囲と信頼関係を築き、課題を解決したエピソードを具体的に伝えます。
- 回答のポイント:「前職において、サービスの強みが顧客に伝わりにくく成約率が伸び悩んでいた際、企画部門だけで判断せず、営業現場や既存顧客へのヒアリングを徹底いたしました。顧客が最も価値を感じていた『導入後の手厚い伴走体制』を明確に言語化し、提案資料や事例コンテンツを刷新いたしました。その結果、商談成約率が〇%向上し、解約率も半減させることができました。関係者の想いを丁寧に汲み取り、共通の価値として束ねていくプロセスを貴社でも徹底いたします」
3. 自発的な「企業研究と分析姿勢」を行動事実で示す
言葉だけの熱意にとどまらず、客観的な事実として伝えます。
- 「JTBの統合報告書や中期経営計画資料、リブランディングに関する発信内容を読み込み、ツーリズム事業からエリアソリューション、ビジネスソリューションへの事業ポートフォリオ変革の意図を自分なりに分析・整理してまいりました」
- 「実務への立ち上がりを迅速にするため、観光庁の観光立国推進基本計画や地方創生におけるDMOの先行事例、法人向けMICE(国際会議・展示会・インセンティブ)の最新トレンドについて調査と学習を継続しています」
このように、JTBが挑むリブランディングの本質を事業構造改革と連動した経営戦略として正しく捉え、華やかなイメージに逃げず「現場への深い敬意」と「課題解決による事業収益へのコミット」を両立させる姿勢を行動事実とともに示すことで、面接官に即戦力としての高い評価と信頼感を与えられます。



